第2次トランプ政権が仮想通貨(暗号資産)の普及を推進することで、新たな経済の可能性が広がると考えられています。
規制緩和によって匿名通貨やスマートコントラクトなど、従来の金融システムでは実現しにくい取引の自由度が増すとともに、XRPを活用した送金手数料の削減や、ステーキングによる資産運用の多様化など、経済への正の影響が期待されています。
一方で、犯罪利用のリスク、国家によるビットコイン備蓄の必要性、価格変動リスクといった課題も無視できません。
仮想通貨の発展がもたらす恩恵とリスクを踏まえ、適切なルール整備が求められるでしょう。
昨今、最もホットな話題の一つとなっている本トピックについて、専修大学経済学部のOGAWA先生にご見解をお伺いしました。
なお、今は仮想通貨を「暗号資産」と呼ぶのが一般的ですが、ここでは仮想通貨と呼びます。
また、この一部は現在紀要原稿などで執筆中のものであると伺っています。

小川 健
専修大学 経済学部 教授
理学部(旧数学科)から大学院より経済学に移る。2011(平成23)年3月博士(経済学、名古屋大学)。現在の担当は、国際経済論、資源・エネルギー論、数学補充科目、貿易論など。専門は近経貿易理論、水産物貿易(理論)、暗号資産教育、経済学教育におけるICTの活用など。貿易論に限らずマルチに活動。2015(平成27)年4月より現在の大学に移る。教育の工夫の一環として国際金融の講義に暗号資産教育や外貨建て保険等を取り入れてきた。
仮想通貨普及のメリットとこれからの可能性

OGAWA先生、第2次トランプ政権下での仮想通貨普及について、まずはメリットからお聞かせいただけますか?



最大の点は何と言っても規制緩和により「仮想通貨で実現したい世界」の開発可能性が高まる点です。仮想通貨には仮想通貨でしか実現できないと思われる社会の在り方が数多くありますが、それは基本的に「規制緩和で様々な仮想通貨の開発を許容していかないと」実現できないものです。



具体的にはどのような可能性があるのでしょうか?



例えば日本では追放をかけた仮想通貨の1つにモネロやZcashなどの「匿名通貨」があります。犯罪利用・資金洗浄に使われる危険性として日本では外した部分ですが、本来ならば「プライバシーの保護を確保しながら」取引が出来る、という面があります。



匿名性に関して、ビットコインとの違いを教えていただけますか?



ビットコインなどは疑似匿名性、つまりそのIDは誰が持っているか「明かしていないから」誰の取引か分からないだけであって、そのIDはどんな取引をしているかについては明らかにしています。最初の2009年1月3日から全ての履歴を追えるからこそビットコインは信頼されている面がありました。しかしそのIDを誰が持っているかが分かってしまえば、どんな取引をそのIDでしたのかが分かってしまいます。



プライバシー保護の観点から見ると、どのような課題があるのでしょうか?



他者にはあまり知られたくない取引というものはあります。性癖に関する商品の取引や、コンプレックスを隠すために使われる商品など、合法なものでも知られたくない取引は数多くあります。また、政治的な寄付など、取引履歴から政治的立ち位置が推測される可能性のある取引もあります。このような場合、プライバシーの保護を確保しながらの取引確保が重要になってきます。



他にも、新しい可能性を秘めた仮想通貨の例はありますか?



はい。例えばXRP(旧リップル)を利用したリップル・ネットワークでは、あらゆる金融を1つのネットワークにつないでお金・価値を手軽に送り合える「価値のインターネット」の実現を目指しています。これが実現すれば、国内でのATM手数料や国際送金の手数料なども大幅に下げられると考えられます。



イーサリアムの特徴についてはいかがでしょうか?



イーサリアム・ブロックチェーンの重要な機能の1つがスマートコントラクト(自動決済・強制決済)です。これにより、代金を支払ったのにものが届かない・商品を送ったのに代金が届かないという問題が、少なくともオンライン上で送れるものでは改ざん困難な取引履歴付きで解消できるようになりました。さらに、NFT(非代替トークン)という「改ざん困難な電子的シリアルナンバー」を活用できるようになっています。



そうした新しい可能性を広げていくために、どのような環境が必要になりますか?



そうした新しい世界の在り方を広げていく・活用していくには規制緩和で色々新しいことを試せるようにするしか現実的にはありません。この後も今回は説明していない未来の色々な在り方が今後も試されていくことでしょう。或る意味でビットコインの現物ETFの承認もこうした規制緩和のひとつと言えます。



ビットコイン現物ETFの承認も大きな動きとなりましたが、これはどのような意味を持つのでしょうか?



ビットコイン現物ETFの最大の目的は、機関投資家の資金の一部をビットコインなどに組み込むことにあります。第2次トランプ政権の仮想通貨推進の立場を考えれば、イーサ、XRPをはじめ主だった仮想通貨にETFを認めることも業界では望まれています。



機関投資家の参入は、市場にどのような影響を与えるのでしょうか?



とりわけリスク資産扱いである仮想通貨に現物ETFの形で機関投資家の資金が入ることは、保有する人が急に一斉に売り払っていなくなるというリスクが減ることを意味します。かつてリーマン・ショックでは、リスクへの恐怖が一気に増大してリスク資産への保有者が一気に少なくなったために、本来なら正当な価格が付いたはずのリスク資産ですらまともな価格が付かなかった事案がありました。



年金事業者などの機関投資家は、そうした急激な動きは起こしにくいということですね?



そうです。年金事業者などの類の機関投資家の場合、一気に売りに出すことの危険性は理解している可能性が高く、急な動きはそこまでしにくいでしょう。これにより、リスク資産がリスク増大により一気に買われなくなる可能性から主だった仮想通貨を或る程度守れるという意味があります。資産運用の選択肢の1つに仮想通貨がなりつつあります。



ステーキングという新しい資産運用の形も注目されていますね。



はい。保有量に応じてブロックの接続権限が与えられるProof of Stake(PoS)型およびその派生形の仮想通貨の場合、交換業者として「見せかけの」保有量を増やして接続権限を確保しておきたいという観点から、ステーキングというサービスが登場してきました。これは或る種の「銀行預金の利子」に近い位置付けとなり、新しい形の殖やし方として注目されています。
仮想通貨普及に伴う想定リスク



次に、想定されるリスクについてお聞きしたいと思います。まず、「ビットコインの備蓄」についてどのようにお考えですか?



ビットコインの備蓄、いわゆる「ビットコイン準備金」について考える際、まず備蓄の本来の意味を理解する必要があります。国家による備蓄が「リスク対策」になる場合というのは、その形で持つことでそのまま使える場合が中心になります。備蓄したものを市場に出せば供給過多で価格は下がるはずであり、それ以外の場合は「そのまま使う場合」が本来の備蓄の姿なのです。



具体的な例を挙げていただけますか?



例えば、原油や天然ガスの備蓄は「いざ不足・輸入価格高騰時・輸入停止時に使えるように」という目的があります。また、お米の備蓄を例に取ると、江戸時代には飢饉等の際の「お救い米」として機能していました。これらは直接その形で使えるものです。



その観点から見て、ビットコインの備蓄にはどのような課題がありますか?



USA政府においてビットコインの備蓄をした場合、そのまま使える用途が極めて限られています。法定通貨として認められている国は2025年1月現在、中米エルサルバドルと中央アフリカ共和国に限られます。多くの国ではビットコインで直接支払いができる場所は多くありませんし、「これだけ価格変動の大きな」ビットコインで支払われても困る国・政府の方が多いでしょう。なお、エルサルバドルはIMFとの交渉によりその立ち位置が推奨から変わりつつあります。



国際送金の手段としての可能性はいかがでしょうか?



ビットコインの当初注目された用途が2013年のキプロス金融危機における国際送金の手段でした。しかし、旧来の国際送金の手段であるSWIFT体制は米ドル中心に構成されています。他の国でビットコインを受け取る体制が出来ていないとビットコインに切り替える恩恵は得られません。



価格変動のリスクも大きな課題になりそうですね。



ビットコインと主要法定通貨の間の価格変動率は、米ドル・ユーロ・日本円など主要法定通貨間での価格変動率より大きいことが知られています。個人間や企業間でそのリスクを理解した上でウォレットを用意して送受金をすることはあっても、現状のあまりビットコインが普及していない状況で、ビットコインでの国際送金に積極的に切り替えることは考えにくい状況です。



そうなると、備蓄したビットコインの活用にも課題が出てきそうですが。



そうですね。USA政府がビットコインで備蓄したとして、そのまま使う用途が無くなってしまいます。どうせ米ドルに換えるなら手数料を考えればビットコインで備蓄する意義はあまり高くありません。一気にビットコインから米ドルに換えればその分だけビットコインが値崩れを起こして、当初の価値程米ドルは確保できません。そのビットコインの備蓄をどう活用・処理するか、という部分はリスクでしかない状況なのです。



この問題は、日本銀行の国債保有の問題とも似ているように感じますが。



そうですね。日本銀行は黒田総裁の時代に日本国債の大量保有に踏み切り、2013年3月の約125.4兆円から2023年3月には約581.7兆円と約4.6倍になりました。しかし、それだけの大口の買い手は日本銀行の他には無く、例えば黒田前総裁の就任前の水準まで日本国債の保有水準を下げようとすれば大暴落となってしまいます。ビットコインは持っていなければ暴落しても直接の影響が出るわけではありませんが、備蓄という場合に、交換しないとそのまま使えない限りにおいて売るに売れないビットコインの保有時価総額には意味は無いのです。



最近、チェコの中央銀行がビットコインを外貨準備に入れるという報道がありましたが、これについてはどうお考えですか?



チェコの目的は「ポートフォリオの多様化」にあるそうです。つまり、政策に備えてというよりはリスク分散のような目的と考えられます。これに対し、ECB(ヨーロッパ中央銀行)のラガルド総裁はビットコインなどの仮想通貨を「外貨準備」に採用することは「無いと確信している」と表明しています。



トランプ公式ミームコイン「$TRUMP」の発行も話題になっていますが、これについてはどのようなリスクがありますか?



これは大きな懸念事項です。いくら「政治的なものではなく、いかなる政治運動や政治事務所、政府機関とも一切関係がない」と表明されているとはいえ、$TRUMPを持っていないと支持とみなされない可能性はかなり大きな問題です。第2次トランプ政権が閣僚人事の段階で忠誠心を重視していることは知られており、巨大企業の多くも忠誠を誓うような行動へと移っています。この状況で「事実上買っておかないと支持とみなされない」というものが登場することは、大きな懸念材料です。少なくとも大統領退任後にも価値が維持できるとは考えにくいですし。



政権の姿勢自体にも不安定要素はあるのでしょうか?



最大のリスクとしては、トランプ大統領は根っからの仮想通貨の支持派という訳では無く、「選挙で勝つために」仮想通貨業界を味方に付けようとしただけ、という点です。第1次トランプ政権のときに暗号資産を重視する政策を取っていたわけではありません。そして少なくともトランプ大統領自身に再度の大統領選挙は憲法の規定でありません。入れ知恵に近く、大統領が理解して政策が切り替わったわけでは無いと言えるでしょう。



政権内部での対立の可能性もあるのでしょうか?



はい。特に注目すべきなのが、暗号資産推進をしているように見える存在であるイーロン・マスク氏との関係です。例えば、トランプ大統領就任時のAI推進関係の大統領令に対して、マスク氏が公然と批判をしています。第2次トランプ政権では閣僚の選出方法として大統領への忠誠心を基準にしていると言われているだけに、このような対立が仮想通貨政策にも影響を与える可能性があります。
2025年以降の世界経済の展望



ここからは2025年以降の展望についてお聞きしたいと思います。まず、公約の実現可能性についてはいかがでしょうか?



公約の中で、「ビットコインを全部USAで管理できるようにする」ことは原理的に不可能です。しかし、「ビットコインより優れた仮想通貨をUSA管理の下で用意し、その上でビットコインに置き換える形を取る」ことは理論上可能です。



ビットコインの現状の課題について、詳しくお聞かせいただけますか?



本来ビットコインが現状も利用されているのは他の仮想通貨に対する「媒介通貨」としての側面が中心であり、それは時価総額が最大だからという理由に過ぎません。元々ビットコインは1ブロックの処理に約10分かけることで分散性と安全性を担保する代わりに、1度に処理できる件数の上限がきつく、大量逐次処理が出来ない形になっています。



その課題への対応策は取られているのでしょうか?



現在もビットコインが使われているのは「チェーンに書く頻度を減らす」オフチェーンでの取引を中心とし、チェーンに書き込むのは差し引きをした最後とする「ライトニング技術」が登場したからです。しかし、ビットコイン自体のチェーンに書き込める量の改善は、使用量からすると追い付いているとは言い難い状況です。改良技術は出て来るでしょうが、新たなものを作ったほうが早いでしょうね。浸透させるのが大変なだけで。



より優れた技術への置き換えの可能性はありますか?



より優れた技術を持つ仮想通貨、という意味で答えますね。
例えばXRP(旧リップル)のように「将来的に置き換わるような時限式」の仕組みを入れていないため、一部ビットコインの信者はいますが、本質的には「時価総額が高いから」仮想通貨の中で媒介通貨のように使われている部分が中心であり、惰性的に使っている側面があります。ポケベルやPHSがガラケーに代わり、スマホに代わっていったように、「より優れたもの」と多くの人が認識すれば置き換わる可能性はあります。あくまでもビットコイン自体は旧式の技術です。



そうした中で、デジタル米ドルの動向も注目されていますね。



トランプ大統領は中央銀行デジタル通貨(CBDC)のリテール型であるデジタル米ドルの発行を望んでいない報道もあり、少なくとも在任中には正式なデジタル米ドルは実現しないでしょう。その代わりに、ステーブルコインに関する規制を緩和し、世界中で投資や決済の手段とすることを目指しています。



ステーブルコインについて、これまでどのような課題がありましたか?



2022年5月のテラUSDの暴落など、「ステーブルコイン」と称される事案の多くで価値を完全には保存できなかった事例が起きています。ステーブルコインの代表格とされてきたテザーにも裏付け資産の使い込みにより米ドルとの価値の安定が保てなかったことがありました。この後裏付け資産をテザーは確保し直し,ステーブルコインの規制も作られました。とはいえ,政権は変わったわけで規制の在り方も変わっていきます。



世界的な米ドルの優位性を維持するために、どのような戦略が考えられますか?



世界的な米ドルの優位をステーブルコインで維持するためには、「USAの法律に完全順守のステーブルコイン」と、「他国でも使いやすくした米ドル連動のステーブルコイン」の二種類が必要になります。前者の役割にはUSDコインが、後者の役割にはテザーが適していると考えられます。犯罪対策と法の及ぶ支配領域を考えると単一では維持できません。犯罪利用が明らかな場合にはストップをかけられるようにする必要が前者にはあるからです。一方でテザーについては政権を追われた残党が作ったミャンマー亡命政府が法定通貨に加えることを採用するなど,「他国で」米ドル連動のステーブルコインが必要とされる部分もあります。



それぞれの役割分担について、もう少し詳しく教えていただけますか?



USA国内(及びUSAの友好国を維持できた国)ではUSDコインなどの「USAの法律に完全順守の米ドル連動ステーブルコイン」が、USA国外(USAの友好国ではなくとも米ドルが使える地域)ではテザーなどの「他国でも使いやすくした米ドル連動のステーブルコイン」が使われることで、世界中で米ドル連動のステーブルコインが使える体制が整うことになります。USA独自の法律に違反するから取引停止になりました、なんて他国では使いにくいだけでしかありませんから。大事な点としては「他国で使いやすくする」ものは敢えてUSAで管理せず、米ドル連動のステープルコインとしての価値安定を他に任せてUSAの規制にひっかけず、「米ドル連動が保たれているうちは他国で使われている部分については干渉しない」とすることです。他国内の利用は他国で対応させる。例え米ドルが使われていても、とするのです。



現在の国際金融システムと比べて、どのような変化が起こりうるのでしょうか?



現状、インターネットを始め各業界がオンライン対応できている中、世界で最も使われている米ドルがデジタル化できていない状況です。オンライン決済ではクレジットカード・デビットカードやPayPalなどに頼らざるを得ず、クレジットカードなどに対応しているものしか国を超えて決済できない状況です。かといって仮想通貨では変動リスクも大きい。だからステーブルコインの出番なわけです。価格が(ほぼ)変動せずに使えることが求められます。



ステーブルコインの普及は、その状況をどのように変えうるのでしょうか?



米ドル連動のステーブルコインが世界的に普及することで、銀行や送金業者・クレジットカードなどの会社が持っていた優位性が崩れることになるでしょう。現在、銀行の国際送金はSWIFT体制で行われていますが、こうした「米ドル連動のステーブルコイン」が世界的に普及していけば、銀行側で国際送金を盤石にする名目で現在取っている手数料は確保していけなくなります。



金融機関はどのような対応を迫られることになりそうですか?



XRPを組み込んだ国内外への送金体制を内部に抱える「リップル・ネットワーク」への参加・活用など、対応が求められていくでしょう。クレジットカードなどを使うのはポイント確保や信用スコア確保等のために限られ、ポイントなどに見合わない手数料をかけ続ける所は淘汰されていく可能性が高いと考えられます。銀行間で独自のネットワークを作ることもあるでしょう。
まとめ
本インタビューでは、第2次トランプ政権下での仮想通貨政策の展望とリスク、そして世界経済への影響について、OGAWA先生に幅広い観点から解説していただきました。
実際の政策の展開はこれからですが、金融システムの大きな転換点となる可能性を秘めていることが理解できました。
なお、本記事の内容は投資助言ではありません。仮想通貨への投資は、十分なリスク理解の上でご自身の判断と責任で行うようお願いいたします。
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